真夜中。
ベッドにうつ伏せに寝ている空色の髪の少女。
しかし、彼女は決して眠っているわけではなかった。
ここ数日間、ある悩みが彼女を夢の世界へと導いてくれなかった。
彼女は思い、そして悩む。
(……あの人が、……4th…チルドレン。)
(……なぜ……なの……?)
(……碇君は…、このことを…まだ…知らされていない…。)
(……私が……知らせるべき……なの…?)
(…いいえ…、…碇君に知らせては…ダメ…。…碇君は…きっと…傷つく…。)
(……でも…、…いつかは…分かること…。)
(…それなら…私の口から伝えた方が…いいのかもしれない…。)
(………でも……ダメ……。…私にはできない…。)
(……碇君の…傷つく姿は…見たくない…。)
(……私……、……どうすれば…いい…の………?)
彼女の眠れない日々は続く。
Her worry 〜Episode 17.5〜
Written by Safety
ネルフからの帰りのバスの中。
後部座席に並んで座る少年と少女。
少年は恥ずかしそうに俯いている。
少女は少年に自分の身体をあずけ、安らかに寝息をたてている。
(…今日も……か……。)
ここ数日間、バスに乗る度、いやリニアの中でもそうなのだが、レイと隣合わせで
座る度にこのシチュエーションになってしまう。
(…綾波、…すごい寝不足なんだろうな…。)
(……でも、綾波が寝不足っていうのも、珍しいな…。)
そんなことを考えながら、綾波の柔らかい身体を支え続けるシンジ。
しかし、年頃の若い男女が公共の場でくっついているのである。
当然、乗客の注目を集めてしまう。
(…綾波とこうしているのはいいんだけど、…やっぱり目立っちゃうよね。)
乗客の視線を避けるように、俯いたままのシンジ。
『ガタンッ』
バスが少し揺れた。
目を覚ますレイ。そして自分のおかれている状況を確認する。
シンジに身体をあずけていた自分に気がつくと、慌てて身体を起こす。
「…ゴメン…なさい…。……わたし……また…碇君に………。」
俯きながら、頬を赤く染めながら謝るレイ。
「えっ、そんな気にしないでよ綾波。僕は別に……」
『かまわないから』と続けようとしたシンジだったが、慌てて言葉を切る。
(って、一体僕は何をいってるんだ。そんなこといったら綾波に誤解されちゃう
じゃないか。)
「『別に』…なに?」
突然黙り込んだシンジを不思議に思い、シンジの瞳を見つめ尋ねるレイ。
その視線にどぎまぎしてしまい、ますます慌てるシンジ。
「えっ…、…いや…べ、別に…た、たいしたことじゃないよ、綾波。だから
気にしないで。」
「…そう…。」
会話が一段落して、レイもシンジもほとんど話さなくなった。
時間が経つにつれ乗客も一人また一人と降り、2人だけが車内に残った。
そして2人の降りる駅が間近に迫った頃、シンジが沈黙を破った。
「…ねえ…綾波…。」
「…………。」
レイの返事がない。
「…綾波?」
シンジがレイの方を振り向く。と同時に、
“コトン”
レイがシンジにもたれかかってきた。慌ててレイを抱きとめるシンジ。
「あ、綾波…、どうしたの…?」
「…スー…スー…。」
シンジの腕の中で、先程と同じように安らかに寝息をたてるレイ。
今度は、シンジがレイを抱きしめるような格好になってしまった。
「あ、綾波起きてよ。綾波ってば。」
優しくレイの身体を揺する。
しかし、なかなかレイは目を覚まそうとしない。それどころか、ますますシンジの方に
寄りかかってきた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
暗闇の中、5メートル程の間隔をおいて向き合うレイとシンジ。
レイが口をひらく。
「…碇君。」
「なに…綾波。」
「碇君に…伝えなければならないことが…あるの。」
「なに?」」
「…参号機パイロットのこと。」
「綾波は誰が乗るか知っているの?」
「…ええ、…知っているわ。……参号機パイロットは……、」
「ワシや!」
ちょうど、レイとシンジから5メートル程離れた所にトウジが現れた。
「ト、トウジ!!」
「…鈴原…君。」
2人とも驚いてしまい、言葉が続かない。
「なんや、2人とも驚いた顔して。ワシが参号機にのるんや。」
一瞬パニクったシンジだったが、なんとか口をひらく。
「なんでトウジがパイロットなの?」
「別になりたくてなったわけやないんや。なんでもパイロットになれる奴が他に
おらんらしくてな。」
俯くシンジ。拳を握りしめ、身体が小刻みに震えている。
「どうした、碇。」
「碇君…。」
突然シンジが顔をあげた。そして叫ぶ。
「なんでだよ!!なんでトウジがEVAに乗らなくちゃいけないんだよ!!」
「僕は、僕は、これ以上EVAに乗って苦しむ人を見たくない。…それが…親友なら
なおさらだよ……。どうして…どうしてなんだよ!!」
シンジは後ろを振り返り、駆け出した。
「碇君!!」
レイが叫んだがシンジは振り向かない。
「碇君待って!!私の話を聞いて!!」
そう言いながら、レイはシンジを追いかけた。
しかしいくら走ってもシンジに追いつけない。
それどころかますます距離が離れてしまう。
「待って…ハァハァ…碇…君…。私を…おいて…ハァハァ…いかない…で…。」
疲れてしまい立ち止まってしまうレイ。そして彼方に向かって叫ぶ。
「私を一人にしないで!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
眠るレイを抱きしめたままのシンジ。
しかし、途中から安らかに寝てたはずのレイの様子がおかしくなった。
呼吸が乱れ、汗が顔に浮かび、なにやらうなされている様子である。
焦ったシンジは、レイの両肩をつかみ前後に激しく揺すった。
「綾波!綾波!綾波!!」
「………!?」
レイが目を覚ます。そして………。
「碇君!!!」
突然レイがシンジに抱きついてきた。
その勢いで後ろに倒れてしまうシンジ。
レイはシンジをしっかりと抱きしめ、その胸に顔をうずめている
「ど、どうしたの綾波!なにかあったの?」
言葉をかけるシンジ。
「……碇君、ここに…ここにいるのね…。」
ゆっくり、そして確かめるように呟くレイ。
「当たり前じゃないか、綾波。でもホントにどうしたの?怖い夢でも見たの?」
「…ええ。」
そのままの状態で時が流れた。
シンジはふと我に返り、自分とレイが抱き合っていることに気づく。
「…あ、あのさ、綾波…。…お願いだから起きてくれないかな…。」
レイの返事はない。
「…綾波?」
「スー…スー…スー」
(まあ、もう少しで駅に着くし、このままでいるのも悪くないかな。)
しかし、レイは寝ていたわけではなかった。
(わたし……ここにいる。…碇君も…ここに…いる。…これが私と碇君との絆……。
はかなくて…ほそい絆……。でも、私は…この絆を…なくしたくない。…この絆を
失いたくない。…私……どうすれば……いい……の……?)
そしてシンジを抱きしめる腕にギュッと力を込める。
「えっ、綾波…起きてるの?」
レイがゆっくりと身体を起こす。
そしてシンジの漆黒の瞳をじっと見つめる。
「あ、綾波…?」
シンジはレイの紅眼に見つめられ、身体が動かない。
「…碇君。」
レイが囁く。
「何?」
「……私を…一人に…しないで…、…お願い…。」
レイの瞳に涙が浮かんでいるのをシンジは認めた。
レイの様子に胸が締め付けられる思いを抱くシンジ。
そして、心をこめてレイに語りかける。
「前にも言ったよね。僕が綾波を守るって。」
「…ええ。」
「心配しなくていいよ。僕は決して綾波を独りぼっちにはしない。」
それを聞いたレイの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「…ありがとう…碇君。」
《完》
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