ハルオチ

高二の四月、桜もまだ散り切らぬ放課後だった。
「ツカモト、ハル……」
校門を出て少しの所で、後ろからか弱い声が私をフルネームで呼びとめた。
一緒に帰っていたカノコとチェリが不審顔で私を見たあと同時に振り返ると、そこには今年同じクラスになったまだ名前の知らない男子生徒が立っていた。
「その、いきなりで悪いんだけど、俺……オレ……」
男子生徒の言葉に
「うわっ、マジ!?」
「ハル、いきなりコクラレかよ!?」
両脇の親友がおどけたように私を置いて一歩後ろに下がった。

私は東京下町の生まれだ。
父はサラリーマンだけど祖父は元職人で、小さいころから一緒に界隈の祭りに参加したり、銭湯に行ったり、小学校の頃はよく男子生徒と張り合って取っ組み合いの喧嘩もした。
別に自分を江戸っ子などと特別視するつもりはないけど、なによりはっきりしない事、ウダウダしていることが大っきらいなこの性格が祖父譲りであることは、自他共に認めるところだ。

男子生徒は私を呼びとめたものの、目をうるませて見つめるだけで言葉を続けようとしない。しかも、ポケットからハンカチを出して、目元を抑えると、今度は両手で顔全体を覆ってしまう。
幼馴染で私の性格をよく知っている後ろの二人が半笑いで「問題外じゃね?」と呟いた。
「アンタさ、言いたいことがあるなら、はっきりいってくれない?」
私の問いに男子生徒は「ゴメン……オレ……」と顔を覆ったまま鼻をすすりだした。
目の前の光景に私はもう腹立たしいだけで、後ろの二人に至ってはおなかを抱えて笑いださんばかりだ。
「悪いんだけど、アンタみたいな煮え切らない男って、アタシ全っ然……」
そこまで言った時だった。

男子生徒が突然スゥッっと大きく息を吸い込むや
「ぅわっくしょん! ッくしょん! へぃっくしょん! 悪ぃ、俺……ぇえっくしょん! 酷い花粉症で……で……でぇっくしょん! ちょっとく、く、くしゃみ……べぇっくしょんっ!」
そして最後にひときわ大きなクシャミの飛沫を私に飛ばすと、
「ってやんでぇ! このやろーこんちきしょーめっ!!!」
と人目も憚らず叫び、ハンカチでブぶゥゥゥッ! っとおもむろに鼻をかんでポケットに突っ込んだ。

「ツカモトハル、俺と付き合ってくれ」

しばらくの沈黙の後、堰を切ったようにカノコとチェリが笑いだし、男子生徒を嘲笑うような言葉を幾つか並べて私の腕を引いた。

「ごめん。あたし、落たかも」

私の両脇で親友の二つの笑顔が硬直した。

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